東京地方裁判所 昭和54年(ワ)257号・昭53年(ワ)10926号 判決
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【判旨】
二また、以下の事実も当事者間に争いがない。
原告は、昭和四七年七月一七日被告との間で、左記約定のもとに本件土地を代金四四四万五四七七円で買受ける旨の売買契約を締結した。
(一) 代金支払方法
(1) 契約と同時に手付金として金二〇〇万円を支払う。
(2) 内金八〇万九七四〇円は、昭和四七年八月から同年一〇月まで毎月三〇日限り金二〇万円宛、同年一一月三〇日限り金二〇万九七四〇円を各約束手形をもつて支払う。
(3) 原告は、被告の昭和四七年八月以降の住友銀行に対する未払月賦金合計金一六三万五七三七の支払を被告から引継ぎ、売買代金の支払として、被告の名で住友銀行との前記約定に従つて同銀行に支払う。
(二) 移転登記
手付金支払と同時に原告のために所有権移転の仮登記をし、銀行ローンの完済時に所有権移転の本登記手続をする。
(三) 違約条項
被告が契約に違反したときは、原告において直ちに売買契約を解除でき、他方原告が契約に違反したときは、被告において直ちに売買契約を解除し、損害賠償として被告が手付金を取得し、原告は直ちに被告に対し本件土地を返還する。
かくして、原告は、右(1)および(2)の手付金と内金の支払を約定どうり履行し、昭和四七年七月一九日本件土地につき所有権移転請求権仮登記を経由(長野地方法務局軽井沢出張所同日受付第四四三〇号)する一方、同年八月以降昭和五三年六月までの各月賦金を被告の名で住友銀行に支払つて来た。
その後、同年九月一八日国土計画が住友銀行に対し右月賦金債務の残金一六万五四二五円(貸付残金一六万一七八四円、同年七月から九月までの各月賦金に対する利息金二九八四円および遅延損害金六四七円の合計)を代位弁済し、翌一九日被告が右金員を国土計画に支払つた。
三<証拠>によると、
原告は、被告から引き継いだ月賦金債務の各月の賦払金を住友銀行の被告名義の預金口座に入金し、同録行は同口座から毎月自動的に引き落す方法で月賦金に当てる処理をして来たところ、原告は、母親と義弟の病気のため、昭和五三年七月分の月賦金(一万九一五円)の入金を忘れ(同月分の支払を怠つたことは当事者間に争いがない)、さらに同年八月分の右と同額の月賦金の支払のため、同月一九日被告名義の右口座に金二万円を入金したものの、銀行側では、同年八月一八日付保証債務履行請求書によつて国土計画に対し同年九月一八日までに月賦金債務全額金一六万一七八四円を代位弁済するよう請求していたため、右の入金から月賦金に当てる処理をとらなかつたこと(なお、銀行では通常月賦金の支払が一か月以上遅れると、債務者および保証人に宛てて遅滞通知書を出し、右支払が二か月以上遅れると、保証人に対しその履行請求をすること)が認められ<る>。
そして、被告が、昭和五三年九月二八日付一〇月四日到達の内容証明郵便で原告に対し本件売買契約を解除する旨意思表示したことは当事者間に争いがない。(中略)
以上の事実が認められ<る>。
なお、証人松平恵美の証言中に、姉のところに原告の妻元子から何度も電話があつたが、銀行のミスだと言い張るので、支払拒絶と受けとつた、という趣旨の部分があるけれども、この段階に至つて原告側が幾度も被告側に電話を入れているのは金員を支払つて円満解決したいからこそそうしていたことが以上の認定事実から明らかであつて、それを支払拒絶と解釈するなど到底信じられないことである。右証言部分は採用しない。
四そこで、原告は、前記(二の(三))の無催告解除の特約に基づく解除は本件の場合無効である旨主張するので、以上の認定事実をもとに、右主張の当否を検討する。
1 もし仮に原告が住友銀行に対する月賦金債務の支払を継続するとすれば、その債務額は、合計金一六万九六六四円(すなわち、昭和五三年七月から一一月までの一か月金一万九一九七円の合計金九万五九八五円と同年一二月分の金一万八九七六円および金五万四七〇三円)を残すのみであつた。しかし、原告が同年七月分の月賦金を同年八月一七日までに入金しなかつたために、住友銀行は、おそらく右債務の期限の利益を失なわしめ、右当日の元本残額、利息等を清算して金一六万五四二五円の代位弁済を国土計画に請求したものと推測される。そうすると、原告の右債務の履行を、売買代金の一部支払のために引受けていた以上、原告の被告に対する未払売買代金も右の金一六万五四二五円であつたと解して妨げないであろう。約定の売買代金四四四万五四四七円と対比すると、これはわずかな金額である。
2 原告は、昭和五三年七月分の支払を怠つてはいるが、同年八月一九日に八月分の支払のため金二万円を被告名義の口座に入金(ただし、前述のとおり銀行では月賦金に引き落す処理はしていないが)している事実からすると、七月分の支払を単に失念したとみてよく、悪意で怠つたとは認められない。そして、国土計画が代位弁済したことを知つてその金員を支払おうとし、被告が国土計画に右金員を支払つた事実を知つた後は、被告に対し種々連絡を試みているのだから、原告がその支払の意思を有していたことを否定することはできない。
なお、前述のとおり、各月賦金の返済日は毎月一七日であるところ、<証拠>によれば、原告は、昭和四七年八月以降の各月の入金をほとんど一七日を経過した後に入金(ただし、一か月以上を経て入金したものはない)していなことが認められるが、これによつて、被告が何らかの不利益を被つた形跡はない。
3 他方、被告において、原告が昭和五三年七月分の支払を怠り、同年八月分も約定の同月一七日までに入金しなかつたが故に、国土計画による代位弁済という事態を惹起させたからといつて、これより本件売買契約を解除しなければならない程の実質的な不利益は何も被つていないと解せられる。証人松平恵美は、被告の信用失墜等を証言しているが、法的かつ客観的にみて、本件売買契約の解除を正当化する程の合理的な根拠とは認められない。そのうえ、被告は、原告から幾度も電話があつたことを当然知つていたと思われるのに、これに少しも対処しようとしなかつたことも明らかであつて、常識上納得のできない態度といえよう。
4 以上、本件における諸般の事情を考慮すると、被告の無催告特約に基づく解除の意思表示は、信義則上許されないと解すべきであつて、無効である。
(大澤巖)